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ルー・テーズにシュートテクニックを教えた2人の師


ルー・テーズ ジョージ・トラゴス アド・サンテル

      

                       

            「鉄人ルー・テーズ自伝」より



ジョージ・トラゴス

トラゴスは、ヒトクチで言えば”シュートの中のシュート”と呼ばれる
プロレス界の闇の帝王的な存在であった。
彼は私をコーチする以外は、プロモーターにとって必要のなくなった
レスラーのスパーリング相手となり、彼らの骨を折り追放する役割も請負っていた。

スパーリングには容赦というものがなく、プロが相手のときばかりではない。
少しでもプロレスラーをなめた態度に出たアマチュア・レスラーが何人
スパーリングで大ケガをしたかわからない。

ドラゴスにコーチされて、ひとつだけ技を挙げろといわれれば
ダブル・リストロック・・・・・
私はこの技に何度助けられたかわからない
私は幸いにして一度も相手の左肩を破壊するほどの状況に追込まれた
ことはないが、寸前まで締めあげたことは数百度に及ぶ。

あと1インチ手前に引けば腕が折れるという加減をわきまえた上で
この技を使っているのは、多分私だけであるという自信があるが
全てトラゴスのお陰である。

「私はルー・テーズに大きな嫉妬がひとつだけある。
 それは彼がジョージ・トラゴスのコーチを受けていることだ」
 (談:カール・ゴッチ)


 

アド・サンテル

1910年代から1920年代のライト・ヘビー級で無敵を誇った
伝説的な強豪。関節技の技術にかけては多分トラゴスと同格
いやそれ以上の評価を得ていた男である。


サンテルは当時既に52歳だったが、その実力はいささかも衰えておらず、
彼自身、自分の持っていた様々なテクニックを私に教えるのが楽しくて
仕方がなかったようだ。

体中あちこちがいたんで試合には影響があったが、
もちろん私もサンテルとのトレーニングが楽しくて仕方がなかった。

1日に4、5時間、一週間に5,6日、
これを5カ月間続けたのだから私の技術に進歩がないはずはなかった。

ジョージ・トラゴスに教えてもらったテクニックが
プロレスの全てだという風に思っていた私に、
プロレスの奥に底はないということを教えてくれたのがサンテルだった。
サンテルに教えてもらったのは主として”フック”(hook)と呼ばれている、

関節技の中でも最も高度で危険なものであったが、
のちに世界チャンピオンとなった時、何度このサンテル教室に
感謝したかわからない・・それほどサンテルのフックは実戦で役に立った。

ある日、私とサンテルが地下のトレーニング・ルームで
スパーリングをしていた時、プロモーターのマルセビッチが
これを遠くから”のぞき見”していた。

サンテルは私の左腕をまき込んで折れる寸前にまでねじ曲げ、
私も思わず痛さにうめき声をあげた。

その時にマルセビッチが血相をかけて入りこんできた。

「アド、なんてことをするんだ!
テーズは大事なメーンエベンターなんだぞ!いい加減にしてくれ!」

私とサンテルは顔を見合わせて大笑いした。

連日サンテルの技を受けていたことで、事実私は余りの痛さに
4、5試合を欠場したこともある。

これはプロモーターのマルセビッチに対しプロとして実に失礼なことだった。
しかし本当のフックを身に付ける代償としては、
このくらいのことは覚悟しなければならなかった。


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